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名古屋高等裁判所 昭和26年(う)1975号 判決 1952年3月27日

控訴人 被告人 黄進 外一名

弁護人 大池龍夫

検察官 浜田善次郎関与

主文

本件各控訴を、いずれも、棄却する。

被告人両名に対し、当審における未決勾留日数中各九十日を本刑に算入する。

理由

被告人両名の弁護人大池龍夫の控訴趣意は、本件記録編綴の同弁護人の各控訴趣意書の通りであるから、いずれも、これを引用する。

被告人両名に対する同弁護人の各控訴趣意第一点について。

外国人登録令は、外国人の入国に関する措置を適切に実施し、且つ外国人に対する諸般の取扱の適正を期する目的を以て、在日外国人を調査するために、これに登録義務を課したもので、その目的及び精神に徴すれば、同令第四条等の所謂申請期間は、その目的を達成するために、一定期間を限つて登録申請を促進すると云う政策的な期間であると認むべきもので、従つて、その期間内は勿論、期間経過後においても、その登録の申請を免除し又は登録の申請をなすことができない旨を定めた規定、或は斯く解ずべき論拠もない(又右登録申請を不能ならしむべき法務府其他の官公庁の行政上の措置がなされたこともない)以上は、引続き登録申請の義務があるものというべきであり、只所定の期間内に登録を申請した場合においては、作為義務違反はないものとして、犯罪の成立を否定する所謂免責期間であると解するのが相当である。従つて所定期間経過後においても、登録申請不作為の状態が継続する限りは、義務違反の犯罪状態が継続するものというべきである。本件において、被告人両名は、朝鮮に本籍を有する外国人で、昭和二十二年五月二日勅令第二百七号外国人登録令(以下旧令と称する。)施行の際現に本邦に在留していた者であるから、右勅令施行の日から三十日以内に、所定の登録の申請をしなければならないことは、右勅令附則第二項第三項によつて明らかである。然るところ、右勅令は、昭和二十四年十二月三日政令第三百八十一号(以下新令と称する。)により改正され、昭和二十五年一月十六日から施行されたものである。被告人両名は、原判示の如く、旧令所定の期間内に登録の申請をなさず、その後引き続き昭和二十五年九月下旬頃まで右手続を怠つていたものであるから、旧令から新令に跨つて、その義務違反が継続していたもので、斯の如き場合には、旧令と新令との間に刑の変更があつて、新令の刑が旧令の刑より重く定められているとしても、重い新令のみを適用すれば足りるものと解すべきである。原判決が、原判示認定の事実に対して、昭和二十二年勅令第二百七号外国人登録令附則第二項第三項第四条第十三条第一号等を適用したのは、右の趣旨に従つて法令の適用をなしたもので、右第十三条第一号というのは、新令第十三条第一号であることが明らかであるから、原判決の法令の適用には誤がない。論旨は理由がない。

被告人両名に対する同弁護人の各控訴趣意第二点について。

論旨は、いずれも、原判決の刑の量定が不当であるというにあるが、記録を精査し、弁護人主張の各種事情を考慮するも、原審の刑の量定は不当ではないので、論旨も採用できない。

よつて、刑事訴訟法第三百九十六条に則り、本件各控訴を、いずれも棄却し、刑法第二十一条により、被告人両名の当審における未決勾留日数中各九十日を本刑に算入することとし、主文の通り判決する。

(裁判長判事 高城運七 判事 高橋嘉平 判事 赤間鎮雄)

弁護人の控訴趣意

第一点原判決は法令の適用に付て誤りがあると信ずる

即ち原判決は判示事実に対し昭和二十二年勅令第二百七号外国人登録令附則第二項第三項第四条第十三条第一号罰金等臨時措置法第二条を各適用して居るが外国人登録令第十二条を適用せずして第十三条第一号を適用したのは明らかに判決に影響を及ぼすべき擬律の錯誤があり原判決は此の点に於て到底破毀を免れないと信ずる

第二点原判決は刑の量定が甚しく不当であると信ずる

被告人は戦時中徴用に依り日本へ渡航したのであるが終戦後引続き個人的事情の為内地に留り殊に外国人登録令施行当時に於ては人里離れた深山で作業に従事して居た関係上登録手続を為す事が出来なかつたものであり特に悪意があつた訳ではなく被告人は決して密入国者ではないのである殊に被告人は前科も無く朝鮮動乱の関係上現在朝鮮へ帰国する事も不可能であり飽く迄内地に居留する事を切望して止まないものであり犯行に対しても衷心より悔悟して居る次第であつて再犯の虞れは無いと考へられるものであり是等諸般の事情を綜合すれば原判決は刑の量定が甚しく不当であり到底破毀を免れないと信ずる

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